北海道開発技術センター

【decマンスリー Scenicbyway HOKKAIDO】 Monthly Topic
(2005.2)
地域が織り成す美しい北の旅物語の形成に向けて参加し意識を高め、心を一つにして北海道を演出しよう!
―座談会・米国のシーニックバイウェイに学ぶ―

「美しい景観づくり」、「活力ある地域づくり」、「魅力ある観光空間づくり」をテーマとする「シーニックバイウェイ北海道制度」が本格的にスタートします。decでは米国シーニックバイウェイ制度について専門的な知識や情報の集積をはかり調査研究を 重ねてきましたが、その一環で昨年秋、有志を募りアメリカのシーニックバイウェイを視察しました。現地を実体験するとともに、多くの関係者から活動の内容やとり組みの工夫、楽しさを聞き取り、学んだものです。
去る12月15日、視察参加者のうち6名がdec会議室に集い、それぞれが現地で感じたことや今後の活かし方について意見交換を行いました。“地域が織り成す美しい北の旅物語”形成に向けて、みんなで心を一つに、スタートを切りましょう!
出席者 司会/小西由稀 (ライター)
白石一人 (NPO法人支笏湖まちづくり機構NEOSTAGE)
松山智巳 (「レイクトピア21」推進協議会エコミュージアム構想策定部会)
高見友子 (NPO法人ネイティブクラーク)
田村桂一 (北海道開発局建設部道路計画課)
田邊慎太郎 (社団法人北海道開発技術センター)


現地を肌で感じ、北海道での可能性をさぐるために


白石さん


松山さん


高見さん


田村さん


田邊さん


小西さん


視察ルート
■パシフィック・コースト・シーニック・バイウェイ(オレゴン・コースト)
オレゴン州の西海岸を走る584キロメートル。海岸、砂丘、山間部などの多様な景観域で、美しい橋や灯台をのぞむ眺望ポイント、古い灯台を利用した博物館などがある。

■ヒストリック・コロンビア・リバー・ハイウェイ
コロンビア川渓谷を走る112キロメートル。雄大な眺望、滝を中心とした自然、多様なレクリエーション資源、歴史的資源などを有する。

■クレオール・ネイチャー・トレイル
ルイジアナ州のメキシコ湾岸沿いの湿地帯に位置し数百万羽の野鳥、ワニ、ほ乳類などが生息する。エコツーリズムに焦点を当てたマーケティングにより、2003年のベストプラクティスを受賞。

■ノースショア・シーニック・ドライブ
ミネソタ州の北側、スペリオール湖の南岸に位置する。北海道と似た気候で、四季を通じた美しい景色が魅力。最も古い灯台を改築し、B&Bとして活用している。

■ヒストリック・ルート・66
かつてテレビ映画の舞台となったシカゴからロサンゼルスへの路線のうち、ニューメキシコ州の972キロメートル。ゴールドラッシュからモータリゼーションの発展当時の建造物などが保全されている。

■ヘメス・マウンテン・トレイル
ニューメキシコ州アルバカーキ市近郊の国立公園内を通るルート。ネイティブアメリカンのヘメス族の集落があり、昔からの自然と調和した生活様式にふれることができる。

※2004年12月号「シーニックバイウェイプログラム研究報告」に詳しく掲載していますので参照ください

 

 

 

小西  シーニックバイウェイについて、組織体制や資金づくりなど気になる課題がたくさんありますが、今回の座談会では視察したアメリカの各ルートの魅力はどんなものだったか、何を資源としていたか、また人々がどう関わっていたかなどの印象や参考にしたいことなどを話し合いたいと思います。まず、皆さんそれぞれどのような期待をもって視察に参加されたでしょうか。私自身は、シーニックバイウェイのパンフレットづくりなどをお手伝いしている関係で、発祥の地であるアメリカの状況を実際に見たいという思いからでした。 
高見 私は基本的に“休暇”のつもりだったのですが、勉強になったことがたくさんあり、有意義な休暇になりました。
松山 アメリカではどんなことが行われているか肌で感じ、我々の地域にどう当てはめることができるか、可能性を探りたいと思いました。
白石 クレオール・ネイチャー・トレイルをぜひ見たかった。自分たちの活動に応用できる要素がありそうな気がしたのです。実際に歩くことはできなかったのですが、こういう感じでやっていけるという印象を得ることができました。
田村 私は2004年7月からシーニックバイウェイを担当することになり、活動団体の方々と交流してきましたが、その中で感じていることとアメリカの人たちの意識にはどのような違いがあるか、さぐりたいと思い参加しました。
田邊 シーニックバイウェイの調査等に関わって6年くらいになります。今回のルートのうちミネソタ州とニューメキシコ州には別の機会にも行ったことがあり、そのときアメリカの人たちがシーニックバイウェイについてすごく楽しそうに話していた。それでぜひ現場の活動を見たいと思い、今回は私の独断で視察ルートを設定させてもらいました。


看板の規制などで素晴らしい公共景観がつくられている

小西 皆さん3ルートくらいずつ回ったわけですが、印象に残ったことは?
高見 小樽や室蘭と似てる!とあちこちで思いました。スケールの大きさに差がありましたが。
田村 ニューメキシコ州では日本では見られない赤い土や根から枝が生えているブッシュが広がっていました。農地がなく荒野という感じでした。
白石 ルイジアナ州は湿地帯で山がありませんでした。オレゴン州でも視界に山が入ってこなかったですね。
田邊 断崖、道路、林、海、湖、針葉樹、混合林とあらゆる風景がありました。標高が高いので雲が近くに感じられる。日本にはない感じだと思います。
小西 山の上のギリギリのところまでバスで行くんですよね。ガードレールもなくて、まるで「天空の城ラピュタ」のようでした。
田村 ノースショア・シーニック・ドライブのコリドーマネジャーの説明では、地域が盛り上がっているのに対し組織としてどう対応できるか、内部的な説明に苦労しているということでした。我々と同じ悩みがあるようです。しかしノースショアは組織的に成熟していて、プランにそってそれぞれの地域で活動していました。ヘメス・マウンテン・トレイルはまだ発展途上、ヒストリック・ルート・66は素地の上にパブリックアートなどの新しい文化を創っているという感じでした。
田邊 活動の話しで感じたのは、いくつかある資源をどう使い、子どもも含めてどう人を巻き込むかがもっとも重要だということです。たとえばヒストリック・ルート・66ではパブリックアートをつくることに参加型のとり組みが評価されてベストプラクティスに選ばれていました。
小西 クレオール・ネイチャー・トレイルもベストプラクティスに選ばれていましたね。こちらも資源が豊富なところですが。
白石 とくにルートの何がすばらしいという感じは受けなかったのですが、でも、たくさんの人が来て満足して帰っていく。それは、やっていこうという人たちの情熱につきるという印象です。きめ細かく楽しめる。押しつけでない、自然な感じがいいのかも知れません。
高見 私はふだん看板の評価や撤去などの活動をしていますので、現地に着いたとたん、看板のコントロールが素晴らしいと思いました。ウエルカムサインも公共景観として質の高いものが立てられていました。
松山 マンパワーですが、向こうではリタイアした方々が活動の中心になっていましたね。 日本もこれから高齢社会がすすむので活躍できるよう制度や運用に盛り込み、第二の人生の場にするのもいいと思います。看板のほか国道にもゴミが落ちていない、日本のように雑草が茫々と生えていないことも印象的でした。こういった面でボランティアの気運が盛り上がると、地域に愛着が湧き活発になるのではないかと思います。
田邊 アメリカでシーニックバイウェイの指定を受けたところは看板が規制されています。それと、アダプト・ハイウエイ・プログラムという仕組みによって、1マイルごとに地域の人たちが年間数回ずつ清掃をしています。この活動をすると小さな看板に〇〇ファミリーとか会社名といった活動者の名前が入れられるのです。
小西 誇りがもてるようにサポートされているのですね。看板のコントロールは具体的にどのようなものでしたか?
田村 急カーブの前の「注意」とか「矢印」とかも警戒標識です。これらは事故を起こしても自己責任でという感覚で、日本で行政や管理者の責任が問われるというのに対し文化の違いを感じました。
小西 ガードレールも交通安全の黄色い旗もなかったですね。 
高見 北海道でちぎれたままの旗が立っているのは問題ですね。お願いして降ろしてもらっていますがなかなか進みません。降ろしてもまた新しいのがかけられてしまいますし。
松山 旗は交通安全啓発のために立てられていると思いますが、見慣れてしまって今はあまり意味がなくなっていますね。そういうことの理解を促すことで景観を阻害する旗などを減らしていけるのではないでしょうか。
小西 各ルートでは集約看板やビュースポットの看板も、色やデザインが統一されきれいでしたね。
田邊 ニューメキシコ州では州が案内看板をつくっています。州のマークを入れていい景観づくりになっていると思いました。


人を受け入れる姿勢、ホスピタリティの高さが素晴らしい

小西 人々と接してどう思われましたか。私は、彼らの地域を愛する気持ちの大きさに、つよい印象を受けましたが。
田邊 今回のルートをコーディネートするにあたって、それほどたくさんの人とコンタクトを取ったわけではなかったのですが、現地でいろんな人と会うことができました。我々のような日本人が突然来ても受け入れる、という姿勢があるんですね。リソースセンター、各ルートの方々、みんなホスピタリティが高く安心して説明をお願いでき素晴らしかったです。
田村 委員長が「ルート沿いは仲よく友達感覚で活動している」と話してくれました。苦労話しはあまりなくて、楽しくやっているという印象がつよかったですね。
高見 「他のルートは敵じゃない」と言われたことが、心に残りました。 
小西 シーニックバイウェイに来てくれる人はすべて仲間だという意味ですね。
白石 自分たちが愛している地域にこんないいところがあると、紹介したくてしようがないという感じでした。リタイアされ、ある程度自由な時間がある人が活躍していますね。我々もいろんな年齢の人に参加してもらう土壌をつくっていくことが大切だと思いました。
松山 ルートから外れた話しですが、オレゴン州に夜おそく着いて食事をしようと思ったのですが、店がすでに閉まっていました。するとあるレストランの経営者が自分の車で、開いている店までつれて行ってくれたのです。サウザンホスピタルといって南の地域の人たちの気質だそうです。
小西 地元の人とコミュニケーションが取れると思い出深い旅になりますね。我々もそういう風にしてあげたいものです。


見せる資源も活動も、肩ひじ張らず気楽に

小西 資源についてはどう感じましたか。ルート・66ではネオンサインが資源になっていましたが、むしろススキノの方が華やかですよね。でも古くからのものなので大切にしているということです。どんなものでも地元が愛着を持っていれば資源になるのだと思いました。
白石 景観というとどうしても自然をイメージしますが、何気ない橋とか、あんなものでも?というような、アバウトなビュースポットもありました。自然な感じで肩の力をぬいて活動している。ああいうふうにできれば難しいことではないですね。
高見 北海道では景観というと、たとえば花を植えるとか「つくろう」とする傾向がつよいように思います。しかしそうでないということ、自然に生活している姿が景観として資源になる、旅行者が楽しめるということがわかりました。ただ、このことは感じとしてはわかりますが、どうすれば一般の人たちにもわかってもらえるか、考えると難しいものです。写真でも伝わらない、説明できないという感じなのです。ルート沿いに住んでいる人がここが大事と思うこと、その気持ちによって、たとえば錆びた農機を放置するとかゴミ捨てとかがなくなっていく―そういうことなのだと思いますが。
田村 最近は北海道の土木構造物もでしゃばらないデザインが主になっています。
田邊 ミネソタ州の景観は石の削りっぱなしが多かったですね
小西 これはいい、ぜひとり入れてみたい、と思ったものはありましたか?
高見 ゴミ箱が工夫されていて感心しました。単なるポリバケツに木のふたをつけただけですが、よいアイディアだと思いました。
白石 行く前はシーニックバイウェイはすごい所だとイメージしていたのですが、そうではなく、電線に合わせて木が切られていたり、枝を切り落としていたり大胆でいい加減な感じもあり、それでいいのだと思いました。地域の歴史はおみやげ店の中に古い写真が飾ってあるなど、必ず見せるように工夫されていましたね。
松山 やはり感じたのは、整備された道がつづいているのでないけれども、ゴミやむだな看板などがないことです。北海道のどこかに似ているような田舎にお客が来て楽しんでいる。我々も同じことができると思います。日本はこれまで観光地を点で整備し、バスで寝てそこに着くという団体旅行が多かったのですが、今は個人旅行にシフトしており、車で走れば周りの景観も見る、アメリカのように道を走ること自体を楽しむようになると思います。オール北海道で、素材ごと売りこめばいいのだと認識すれば、今あるものをきれいにしようとか、少しだけ手をかけようという発想につながっていくのではないでしょうか。
高見 北海道でもできる、これでいいんだとホッとしたという感じがありますね。住んでいると自分の地域のよさがわからないですから、日本国内の昔からあるルートをもっと見ることも必要かも知れません。
白石 ゴミが落ちてないのは清掃しただけでできることではなく、「意識」によるものだと思います。参加する人の幅を広げ意識を高めることから始めればいいのではないでしょうか。時間がかかりますが、できない難しさではないと思います。すぐに結果を求めずに時間をかけて活動していくことでしょう。
田村 アメリカのやり方を目標にするのでなく、参考にすることです。活動団体や地元は、「やらなくてはならない」でなく「やろうか」と肩ひじ張らずに気楽にやればいいのではないでしょうか。
田邊 どの旅行者に何をどう伝えるか、アメリカでは活動している人たちも行政も、常にそこを意識していると感じました。リソースセンターのハンカ所長の話しでは、訪れた人が記憶するのは聞いたことの10パーセント、読んだことは30パーセント、見たことは50パーセントを覚えている。そして、実際にやってみたことは90パーセントを覚えているということです。やはり何か体験してもらう、するとそれが人に伝えられ広がると思います。北海道ではそこを意識しながら活動していくことが大事でしょう。


子どもから高齢者まで、住んでる側から笑顔を向けよう

小西 シーニックバイウェイに関わりたいと思えるようなやり方を、どう工夫するとよいでしょう。
松山 地域が愛着を持つことが一番大事ですが難しいですね。そこで考えたのは、仮に民家が密集している所にルートを設定し個人に呼びかけてはどうかということです。個人が活動することによって愛着を持つようになり底上げされて、道を愛する人の集団になっていくのではないでしょうか。
高見 アンケート調査をするとシーニックバイウェイを知らないという人が多いです。ルイジアナ州で行われているホスピタリティプログラムを参考に、地域がいっしょになって訪れた人を親切に迎えられるようになりたい。アメリカで羨ましいと思ったのは、たとえばある場所に駐車帯をつくりたいとなると、土地の所有者は「では使ってください」といい、役所が整備し、地元のNPOが管理を引き受けるというように、パートナーシップが確立していることでした。
白石 看板一つでもどこの部分をだれが引き受けると、自分たちができることをやるという姿勢が徹底していますね。
田邊 活動する人がニコニコしていることが一番です。笑って活動したい。
白石 北海道の観光地では、お客と接してるときは笑顔でも休憩時間に呼び止められると振り向かないなどといわれます。そうでなく、子どもから高齢者まで、住んでる側から気楽に声をかけられるようであれば可能性は広がる。そうした意識づくりは、とりかかれないことではないと思います。
田村 アメリカでは人々が分け隔てなく接していました。北海道でも行政の人間などは上下関係を注意しなくてはなりません。
白石 我々も今までの行政とのつきあい方を改める必要がありますね。ついギスギスしてしまうことが多いですから。
松山 時代の状況からみて、シーニックバイウェイ制度導入のタイミングとしてはベストです。地域がギスギスしても最終的にはうまくいくと思います。道づくりだけでなく他の制度にも波及していくのではないかと期待します。
小西 制度だから「やらなければ」という気持ちでなく、土地柄によって地域の思いを大切にし膨らませていく。すると個性ある道がつくられていくと思います。それを楽しみに活動しつなげていくことが大事ですね。いずれはアメリカからも、北海道のバイウェイを走ってみたいという人が大勢訪れると信じ、“地域が織り成す美しい北の旅物語”を北海道全体でつくっていきましょう。

「シーニックバイウェイ北海道」制度について詳しくは、
国土交通省 北海道局ホームページの
「北海道におけるシーニックバイウェイ制度導入モデル検討委員会」
http://www.mlit.go.jp/hkb/
シーニックバイウェイ北海道のホームページ
http://www.scenicbyway.jp/

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